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ディーン・クーンツのおすすめ作家リストにハマった!
ディーン・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』と言えば、小説作法の本として色んなところで紹介されることが多いので、ご存じの方も多いだろう
この本は、小説作法としては勿論、一冊のエンタメとしても素晴らしい完成度を誇る本だった
読んだことのある方には分かってもらえると思うのだが、
この本を読んだ直後は「君にもきっとベストセラー小説を書ける!」と、鼓舞されたような、背中を叩いてもらったような気持ちになったものだった
内容は
「何故この本を書いたのか?」から始まり、
小説は多くの読者に読まれなければ意味がないと喝破する姿勢、
ベストセラー作家になるまでの酸いも甘いも混じった経験談、
当時の出版界の事情、
プロットの重要性、
小説の登場人物の人物造形などなど、
クーンツの語り口はまさにベストセラー作家のそれだった
読者を掴んで離さないやり方を、実際に本を通じて教えてもらったようなものだ
勿論、この本は既に40年以上前のもので、現代の作家(志望)の役に立たない部分も多いだろう
小説作法の細かい部分では、既に古臭いものも多いに違いない
しかし、この本の真価はいくらもある「小説(シナリオ)の書き方」ではない
「君にもきっと、ベストセラー小説を書ける!」
そう作家達を強く後押ししてくれる本は、この本以外にはない
そんな本の巻末に、件のおすすめリストが存在する
そこには、ディーン・クーンツが読むことを薦める作家たちと、その作品リストがあった
たちまち『ベストセラー小説の書き方』に魅了された私はそのリストと首っ引きで、何年も古本屋を駆けずり回ることになる
何故なら、小説を書こうと思ったから
大学時代にこの本に出会ったとき、出版から既に20年以上経過していた古書だった
それでも、私はその野心的なタイトルに惹かれて購入し、夢中になって読み込んだ
(小説の書き方じゃなくて、"ベストセラー小説"の書き方だと?)
今風に言えば、収益月1万円ではなく、月100万円のブログの書き方を教えようと啖呵を切っているに等しい、自信満々な面構え(タイトル)
(よし、どの程度のものか見てやろうじゃないか!)
そんな挑戦的な気持ちでページをめくると、私はあっという間に彼、ディーン・クーンツの語り口の虜になってしまった
彼のベストセラー作家としての矜持、こだわり、職人性の全てに惹かれてしまった
私はその後も何度もこの本を繰り返し読み、アンダーラインを引きまくり、挙句の果てに「小説を書きたい」という気持ちが高ぶっているのを自覚した
そう、私は彼の本と、そのあり方に魅せられていたのだ
けれど、私は小心者だった
実際に自分の本を書き始めることに、二の足を踏んでしまっていた
言い訳はいろいろ思いついた
まだ、そのときではない
まだ、自分には勉強が足りない
優れた作品に触れた経験が足りない
(今もって、その状態からは脱していない。というか、もっとひどくなっている。昔ほど、新しい本を読まなくなっているんだ)
当時の私は本を書く代わりに、巻末のおすすめ作家のリストを攻略する道を歩き出した
そこには聞いたことのある作家も、知らない作家も名を連ねて、私が作品に触れるのを待っていた(ような気がした)
特にスティーヴン・キングは、めちゃ読んだ
ディーン・クーンツと同世代の作家に、スティーヴン・キングがいる
クーンツは知らなくても、キングを知っている人は多いだろう
近年も、リメイク映画の『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』や
海外テレビドラマ『アンダー・ザ・ドーム』
昔の映画なら『シャイニング』などの原作者として有名だ
そして勿論、このキングもクーンツのおすすめ作家リストに入っていた
私は当然、キングの本も読んだ
彼の本は人気で、比較的書店で手に入りやすいものだった
『IT』も(『ベストセラー小説の書き方』が出版された当時、まだ存在しない作品だったので、当たり前だがリストには載っていなかったが)読んだ
文庫で4巻の長さ、原稿用紙3800枚は伊達ではなかったが、その面白さでぐんぐんページをめくっていった
キング作品はそれぞれ別の世界の話でありながら、同じ世界観、平行世界を共有する巨大な作品群だ
ちょっとオタクっぽいというか、ニッチなところでその世界観を統括しているダーク・ファンタジー、『ダーク・タワー』シリーズなんてのもある(勿論、これも読破した。というか、まだ本棚に並んでいる)
↑私が買って揃えたのは新潮文庫版だったが翻訳者は同じ風間賢二氏。これは角川文庫版
このシリーズは長大で、文庫でなんと15巻分(角川文庫版ではさらに加筆・修正され、外伝1巻が追加されている)
当時、まだ翻訳モノの横文字の多さや独特のテンポに不慣れだった私は、これを読了するのに常に知恵熱のような頭痛と戦いながら読み進めた
そこまで夢中になった
これは人気になるわけだよ、キング! と、脱帽した
そうして、私はますます本を書くという最初の目標から遠ざかり、おすすめ作家リストを探し回ることに、のめり込んだ
結局、小説は書かなかったけれど、本棚にまだおすすめの本が残っている
私はROM専になった
いつの間にか、本を書くことより本を読むこと
自分の内的世界を深めたり広げたりすることの方が
自分を表現することより面白いモノになっていった
そして、いつの間にかクーンツのおすすめ作家リストを見返すこともなくなり、本の整理をする間に『ベストセラー小説の書き方』は古紙として処理された(何せ、書き込みが多かったから、古本屋に持っていく訳にもいかなかった)
けれど、私はあの、おすすめ作家リストにハマっていた時期を懐かしむことはあれど、後悔したことはない
作家リストの詳細を思い出すことはあまりないけれど、未だに、あのとき集めた本の一部が本棚に並んでいる
ディーン・クーンツ(勿論、彼の本も読んだ。お気に入りはSFスリラー『ライトニング』とオカルティックな一人称が(クーンツとしては)珍しい『オッド・トーマスの霊感』そして日本を舞台にしたサスペンス『真夜中への鍵』)
スティーヴン・キング(特に、『ダーク・タワー』シリーズだ。読み返す時間はないが、またあの中間世界を旅したい)
ダシール・ハメット(『ガラスの鍵』は何度も読み返した。今も読み返している)
ジョン・D・マクドナルド(『ディベロッパー』はまだ読まずに棚にある)
濃紺のさよなら (Hayakawa pocket mystery books) ⇧ジョン・Dの『トラヴィス・マッギー』シリーズ。おすすめ
リチャード・スタークの悪党パーカーシリーズ(『人狩り』『汚れた7人』)
人狩り―悪党パーカー (1966年) (世界ミステリシリーズ)
(またはD・E・ウエストレイクのドートマンダー・シリーズ)
グレゴリー・マクドナルド(『殺人方程式』は会話表現の妙が冴える)
などなど
あれだけ読んだにしては、残ったのは随分と少ないものである
(しかも、キングとハメット以外はろくに電子書籍で読めもしない古書ばかりだ、なんてこった!)
(いや、ジョン・Dは原語なら山のように電子書籍が読めるが、英語かぁ…)
おしまいに
私の偏った読書遍歴の一部を開陳することになってしまい、汗顔の至りだ
けれど、読書趣味というのは、いくらかなりとも偏りがあるものだと思う
私はある時期に、クーンツの『ベストセラー小説の書き方』に魅せられて、英米の翻訳本をかき集めて読んでいた時期があった
それは今も、私の本棚に痕跡として残っていて
それを見ると、『失われた時を求めて』ではないが、当時を思い出して悦に浸ることもある
まあ、ただそれだけのことなのだけれど
そうやってハマっている間は夢中になれて、あとで思い返して楽しめる歳の取り方ができている時点で、私はかなり恵まれているのだろう